『世界のクロサワ』こと黒澤明監督。

戦後間もない時期にヴェネツィア国際映画賞・金獅子賞と、アカデミー賞・名誉賞を受賞するなど、海外から評価されるようになった彼は敗戦に打ちひしがれていた日本人に大きな希望を与えました。

この記事では、そんな黒澤明監督の時代劇映画を中心にご紹介します。


「羅城門」___世界に躍り出たルーツ

時は平安時代。

日々の食事にも事欠き、誰もが生きるのが精一杯な時代。

ある事件を巡り関係者全員が偽りの証言を繰り返す。

異口同音で、自分が犯人であると主張する証言者たち。

しかし、ある者は虚栄心のため、またある者はつまらない自尊心のため、真実を語るのを拒み、事件の真相は見えてこない。
誰しもが日頃から感じながら自らの内には無いと嘯く人間の本性が描かれる、ネガティブなヒューマニティに溢れています。

ただ、胸糞悪い作品ではありません。

そこは黒澤作品、最後には人間愛による救いが提示されています。

ちなみに、タイトルで誤解されることが多いですが原作は芥川龍之介の『藪の中』です。

「七人の侍」___文句なしの大傑作!

3時間を越える長丁場には映画初心者でなくとも身構えてしまいますが、いわゆる哲学的名作にありがちな堅苦しさはなく基本エンタメ映画の路線なので楽しんでいるうちに終幕となります。

この映画が並みの時代劇とは違う点は容赦が無いところです。

野武士や侍など戦う男たち以外の農民も容赦なく命を奪われていきます。

誰かが亡くなるたびに墓が増えていきますが、それが作品に緊張感を持たせてくれます。

妥協の無い演出はさらに過熱し、どうみても素人だろというお婆ちゃんを登場させ妙なリアル感を出したり、家事になるんじゃないかと心配になるほどの炎を立ち上げるなどやりたい放題。

何かと効率を求められる時代で、映画に3時間費やすのはどうなのと疑問に思う方もいるでしょうが、映画ファンがこぞって名作だと叫ぶそのワケを自分の目で確かめるのも悪くないですよ。

「隠し砦の三悪人」___西部劇の影響をうけた極上の娯楽作品!

1958年公開「隠し砦の三悪人」は最高傑作です。

お姫様と将軍、そして2人の百姓が敵陣からの脱出を目指すという、笑いとアクションの痛快エンターテインメントです。

数ある作品の中でも珍しく、コミカルなテイストが特徴と言われています。

お姫様や百姓2人組のキャラクターは、後に「スター・ウォーズ」のレイア姫、そしてR2-D2とC-3POらの原型になったとの説もあります。

「赤ひげ」___三船敏郎出演・最後の傑作

定期的にやってくる黒澤映画長編作品のひとつ。

なんと3時間を越える大ボリュームです。

また妙に解説が多かったり、冗長なやり取りがあったり、環境ビデオだったりするのかと思いましたが、そんな心配はまったくの杞憂でした。

主人公は当然、三船演じる赤ひげで間違いないだろうと思うでしょうが、真の主人公は若さ弾ける加山雄三扮する駆け出しの医者である保本でしょう。

一般庶民とは縁の薄い将来を約束された道を歩んできたエリートの保本。

赤ひげのもとに派遣され、医療現場の現実を直面し愕然とします。目を背けたくなるような施術や患者を苦しめる真の病である貧しさに触れ成長していく青年保本が描かれます。

 

「蜘蛛巣城」___”マクベス”の重厚な世界

1957年公開の「蜘蛛巣城」は、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した巨編です。

シェイクスピアの「マクベス」を戦国時代の日本に置き換え、さらに能の要素や様々な文学作品から影響を受けていると言われる重厚な物

語であり、単なる「マクベス」のリメイクではなくオリジナルとしても傑作とされています。

オープンセットの規模やエキストラの動員数など、黒澤作品では随一の規模で制作されました。

 

「乱」___ その全てが黒澤明の拘り!

黒澤時代劇のラストを飾る壮大な作品。

ベースとなっているのはシェイクスピアの戯曲『リア王』で、それを戦国時代でアレンジし、大武将の一文字秀虎が子供たちをはじめとする様々な裏切りに遭い勢いを失っていくさまを描いています。

とにかくスケールの大きさを感じさせる映像が満載です。

タイトルシーンから夏の高い空にそびえ立つ入道雲に圧倒され、緑萌える丘にどこかミステリアスな感じで佇む騎馬武者に見入り、炎上する城と発狂する秀虎に固唾を飲み、壁を染めるように飛び散る鮮血に眉をひそめ、終盤の沈む夕陽には人の避けられぬ運命を感じます。

自然という大きな存在を感じさせることで人間の小ささを印象付けている演出なのかもしれません。とにかく『はあぁぁ』とため息をつきたくなる雄大なシーンの連続なんです。

しかしストーリーは味気ない、黒沢監督の私小説と思えるような部分もあって鑑賞中にふと我に返るような瞬間が多くあり、没頭できないのが難点。

それでも映像美は一級品で、これだけでも観る価値あります。

特に『CASSHERN』が楽しめた方にオススメしたいですね。

「影武者」___武田家の悲劇を描く時代絵巻

キャスティングについて不満の声が多く聞こえる作品。

皆さん勝新太郎を贔屓にされていますけど、仲代達也も味のある役者ですよ。

それに仲代にすることで他の作品との違いが出たと個人的には思います。

その違い、というかコレじゃない感のためか記憶に残る作品です。

大量のエキストラを動因し、小さい人間が細々と何かやってるなという神の目線が楽しめる。

ラストシーン、戦火に倒れた武者たちが転がり、合戦が無益であることを映します。

『乱』の三の丸に続いてく悲壮感が漂います。

評判がいまひとつの『影武者』と『乱』ですが、私としては黒澤作品として忘れてはいけない重要な存在です。

白痴同様、相当の使命感を持って黒澤監督は製作に取り組んだのではないでしょうか?

「椿三十郎」___チャンバラ大傑作!

1962年公開の「椿三十郎」は前年の「用心棒」の続編です。

藩の重鎮らによる汚職事件を告発しようとする若侍たちと、成り行きで助っ人を買って出たくたびれた風情の浪人・三十郎が、大暴れして事件を解決するチャンバラ映画です。

「用心棒」を、わかりやすく、そして親しみやすくしたテイストで、黒澤映画ビギナーにはぴったりの一作です。

三船敏郎演じる三十郎のダイナミックな殺陣は素晴らしく、また画面に現れる刀は真剣を用いて撮影するなど、随所にその拘りが詰まっています。

また、そうした”チャンバラ”だけでなく細部の演出まで緻密に計算しつくされた一部の隙もない名作と言えます。。

後に、2007年には黒澤監督をリスペクトする森田芳光監督が織田裕二さん主演でリメイクしたのも記憶に新しい作品です。

 

まとめ

この記事では、黒澤明監督の時代劇映画中心にご紹介いたしましたが、黒澤明監督の撮るジャンルは、時代劇から現代劇までさまざまです。

その完璧主義はよく知られており、贅沢な時代であったと思わせる逸話を数多く残しています。

そんな黒澤明監督が88年の生涯で残した映画は全部で30作品。

内訳は、現代劇17作品、時代劇11作品、準時代劇(姿三四郎、続姿三四郎)2作品となります。

時代劇が強い印象の黒澤明監督ですが、現代劇作品の方が多いのはちょっと意外ですね。

黒澤明監督の30作品のランキングは多くの記事でまとめられています。

最後に私が参考にしている黒澤明映画ランキングまとめサイトを紹介しますね!

関連記事:黒澤明 映画 ランキングまとめサイトはコチラ!

 

この記事を書いた人

名前:どっととうきょう

派手な映画よりも良質な映画を愛するアラフィフサラリーマンです。
CGをバンバン使ったクロマキ特撮映画よりも、ロケ中心で撮影した映画が好みです。
最近感動した映画は『ボヘミアン・ラプソディ』です。